新型コロナウイルス感染症の流行も終息を迎え、長期休暇を海外で過ごす方も多いのではないでしょうか。
今回は海外渡航前にぜひ知っていただきたい、トラベルワクチンについてまとめてみました。
海外渡航のための予防接種トラベルワクチン
海外渡航者の予防接種には、二つの側面があります。
一つは海外、主にアジア、アフリカ、中南米などで流行する感染症から自分自身を守るために必要なものです。
もう一つは入国時などに予防接種証明を要求する国(地域)に渡航するために必要なものです。渡航先、渡航期間、渡航形態、宿泊施設など、さまざまな要素を考慮して、適切なワクチンを受けておくことが大切です。
またマラリアなど予防接種のない病気の対処や予防薬の知識と準備も必要です。
日本国内で行われている海外渡航の際に必要あるいは接種が検討される予防接種について今回はお話します。
予防接種の種類と推奨される人
① 黄熱
感染リスクのある地域に渡航する人、入国に際して証明書の提示を求める国へ渡航する人。
黄熱は蚊によって媒介されるウイルス性の感染症で、致死率は5~10%ですが、免疫をもたない渡航者などでは、60%以上に達するという報告もあります、アフリカや南米の熱帯地域に渡航する人に必要なワクチンです。入国時や乗り継ぎ時に黄熱予防接種証明書を要求する国もあります。黄熱予防接種証明書(ICVP=イエローカード)は接種10日後から生涯有効です。
② 狂犬病
犬やキツネ、コウモリなどの哺乳動物が多い地域へ行く人で、
特に近くに医療機関がない地域へ行く人。
狂犬病は、発症すればほぼ100%が死亡する病気です。アジア、アフリカ地域を中心に世界中で発症しています。犬だけでなく、キツネ、アライグマ、コウモリなどの動物に引っかかれたり、咬まれたりすることによって感染し、長期滞在、研究者など動物と直接接触し感染の機会の多い場合や、奥地・秘境などへの渡航ですぐに医療機関にかかることができない人に接種が検討されます。暴露前(渡航前)には、1カ月間で3回の接種が必要です。
③ A型肝炎
途上国に長期(1か月以上)滞在する人、特に70歳以下。
④ B型肝炎
血液や体液に接触する可能性のある人。
⑤ ポリオ
流行地域に渡航する人。ブースター接種(ワクチンの効果を高めて免疫を持続させるための追加接種のこと)をします。
⑥ 日本脳炎
流行地域に長期滞在する人(主に東南アジアで豚を飼っている農村部)ブースター接種をします。北海道で幼少期を過ごした未接種の中高年の人は少なくとも2回、できれば3回の接種が必要です。
⑦ 髄膜炎菌
流行地域に渡航する人、定期接種実施国へ留学する人。
⑧ 麻疹・風疹
疾患への免疫が不十分な人。
⑨ インフルエンザ
海外へ渡航しない人も含め、すべての人。
⑩ ダニ脳炎
オーストリア、スイス、北欧、ロシアへの夏季旅行、留学、駐在で必要です。戸外活動をする人は特に推奨されます。タイコバック(国産ダニ脳炎ワクチン)が発売されました。
⑪ 新型コロナ
海外へ渡航しない人も含め、すべての人。新型コロナウイルスというコロナウイルスの1種であるウイルス及びその変異株に、飛沫やエアゾルを介して感染します。
新幡コロナ感染症は、肺炎で死亡する重症疾患から軽症化はしました。しかし、神経系に取りつくため、long COVID(長期後遺症)が欧米では広く認知されて年2回の接種が強く推奨されています。日本では感染者の継続したフォロー体制がないこと、long COVIDの診断基準が確立していない事から顕在化されていませんが、多くの人が苦しんでいることが徐々に解明されつつあります。旅行医学の観点からは、新型ウイルスは海外からの流入ですから、その最前線にいるホテル職員、航空職員、外国人の多い飲食店職員は理想的には欧米にならって半年ごとに、少なくとも年に1回の接種が強く勧められます。なお、海外へ渡航する場合、現在ワクチン接種証明書を求められる国は今現在ありません。
各国の入国に際しての条件などについては、外務省のHPを参照してください。
https://www.anzen.mofa.go.jp/
⑫ 破傷風
冒険旅行などで怪我をする可能性の高い人。破傷風トキソイドは、足底に釘を刺したとか、土にまみれた外傷に対応するものです。トラベルワクチンとしては、Tdapを接種します。
予防接種の種類によっては、数回(2~3回)接種する必要のあるものもあります。海外に渡航する予定がある場合には、なるべく早く(できるだけ出発の3ヶ月前から)トラベルクリニック、渡航外来などの医療機関で接種するワクチンの種類と接種日程を相談して決めましょう。